【ライブレポート】Motion City Soundtrack/NANO-MUGEN FES.2012 at 横浜アリーナ 2012.07.15
NANO-MUGEN FES. 2012
昨月半ばに、およそ2年振りとなった新作をリリースしたMotion City Soundtrack(以下、MCS)。ここ日本でもNANO-MUGEN Fes.2012への出演がリリース以前からアナウンスされていた。
その5thアルバムとなる新作、『Go』のレビューでも書かせていただいたとおり、ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)という、いち国内アーティストが主催している、普段は邦楽を中心に聴いているリスナーには洋楽への、普段は洋楽を中心に聴いているリスナーには邦楽への、その両方を聴いているリスナーにはそれらのさらに奥への橋渡しをするような、フェスに出演することで、これまでよりさらに多くのリスナーに注目されることが期待されるだけあって、MCSのファンの一人としても、リリース以前から期待が高まっていた。
NANO-MUGEN Fesは2日間連続で開催され、MCSは両日に出演が決定していたが、1日目はバンドセットでの、2日目はアコースティックセットでの出演であるとアナウンスされた。ここでは、前者、バンドセットでの公演となった7月15日の彼らのステージについてレポートさせていただきたい。
昨年はWeezerなど海外からも相当な大物アーティストを招集することで、どんどん実績と信頼を高めていったNANO-MUGEN Fes。今年の1日目は主催者であるアジカンの前枠にUKオルタナティヴ界の大御所、Feederと、フェス中盤には過去にもNANO-MUGENに出演していたSpace Cowboyなどを迎えて開催された。これらの面々を前にすると、ややMCSのサウンドは浮いてしまうのではないかと思われるかも知れないが、その心配は必要ない。なぜなら、MCSと同時に2日連続出演アーティストとして、彼らの3rdアルバム『Even If It Kills Me』のプロデュースに携わった人物の一人でもあったAdam Schlesingerがベーシストとして在籍する極上のパワーポップバンド、Fountains Of Wayne(以下、FOW)がアナウンスされていたからだ。NANO-MUGENは原則として、出演順は当日発表。1日目のMCSは、彼らの先輩とも言えるFOWより早い13時からのステージ(ちなみに、2日目となる16日はFOWの後からMCSのステージであった)、全アーティストからみると3アクト目、海外アーティストからみると2アクト目となった。
オープニング・アクトのDr.DOWNERがフェス開演早々、熱狂的なプレイをかまし、MCSの前アクトのMates Of Stateが独特のインディー・ポップ空間を演出し、アリーナにはオーディエンスが集まる。規制などはかかっていないながらも、ネクスト・アーティストとなるMCSのセッティングの時点で、最前列のステージセンターのブロックはかなりのオーディエンスが集まっており、個人的に当初想定していたよりも多くのリスナーが彼らのステージを見届けようとしている光景に期待は高まるばかりだった。一通りのセッティングが終わり、MCSの彼らがステージ上に現れる…!前に、アジカンのギタリスト、喜多建介とベーシスト、山田貴洋がイントロデュースとして前説を行った。「次のアクトは、アメリカはミネソタ州出身の5人組バンド、Motion City Soundtrack!!実はNANO-MUGENとしては05年からずっと呼びたい海外アーティストのリスト入りしていたんですよ。やっと実現できたんですよね」と、喜多と山田。先述の、昨年のWeezerの出演もそうだが、NANO-MUGENは多方面への音楽・シーンへのハブの機能を果たしながらも、アジカンのメンバーが純粋に自分たちの好きなアーティストをどれほど呼べるかにも挑戦している点で、(勿論、賛辞として)かなりファン目線のフェスでもある。つまり、アジカン・メンバーも、オーガナイザーである前に、ファン、オーディエンスでありたいという思いがある(それを証明するかのように、アジカンのフロントマン、後藤正文がフェスの最中にTwitterにて、自分たちが招集したアーティストのステージへの感慨を熱狂的にツイートするのが昨今のNANO-MUGENの恒例とも言える光景となっている)。そこで、アジカン側からの7年も前の時点から招集したかったというMCSへの思い、日本大好きなMCS側からの思い、それらがこのフェスでの出演の裏にあったのでは、と心打たれているも束の間、照明が落ち、モニターには赤字で「Next Artist is Motion City Soundtrack」と大写しになる。
暗がりの中、MCSの面々がしっかりした足取りでステージに集まる。無言のまま、幕開けとしてプレイされたのは、「Attractive Today」。小気味良いギターのイントロが鳴り響き、フロントマンのJustin Pierreがおもむろに歌い出す。10秒もしない内に一気に加速していくアンサンブル。イントロからメロに移る部分に入った瞬間、なぜか(石油メーカーの)76のTシャツを着ていた、Justinの笑顔が微笑ましい。それと同時に一瞬ではあるが、彼らのディスコグラフィーの中では、シングル化されていない曲だけあって、オーディエンスがついてこられるだろうかという不安も頭をよぎった。が、杞憂だった。間奏で、前ブロックにいるオーディエンスが、原曲を知っている者、知らない者、皆ハンドクラップで彼らを迎え入れている。それに呼応するかのように、リード・ギタリストのJoshua Cainの鳴らすSGの響きとバンドのせめぎあうアンサンブルが心地良い。
続けざまにプレイされたのは、「Broken Heart」。実直なリズム隊のアンサンブルと前曲と同様に、どんどん加速していくタイプの曲調に彼らのことを知らないオーディエンスへもどんどん繋がっていくかのように、アリーナの空気が開けていく。サビや間奏では、Jesse Johnsonのいつも通りの猛烈なキーボード・プレイが炸裂。曲終盤では、その憂愁をもとにまた歩き出すような歌詞に比例するかのように、凛々しいダイナミズムさえ感じられた。曲が終わるや否やJustinが「こんばんは!僕たちはMotion City Soundtrackです!ありがとうございます!」と全て日本語で短くMCを挟む。
3曲目となったのは、新作『Go』から「Timelines」。所々でJustinが不敵な笑みを浮かべている様が頼もしいが、それにもまして、くすぐったくなるようなJesseのシンセの音色とTony Thaxtonの力強くも精密なドラムとのグルーヴに心奪われる。「A Lifeless Ordinary (Need A Little Help)」が続くと、Jesseはシンセから一転、一心不乱にタンバリンをたたき出す。中盤では、再びオーディエンスのハンドクラップが響いた。
ここまでの時点で、アリーナ中が、それまでよりもカラフルに見えることに気付いた。それは、Justinのめちゃくちゃな程の美声によるものだろうか、あるいはそれに負けず劣らずダイナミックなバンドアンサンブルによるものだろうか、もしくは(レビューでも書かせていただいたように)格好良いパンクバンドを目指しながらもどこかで不器用さがみられる彼らのスタンスにオーディエンスが反応したことによるものだろうか、恐らくその全てであろう。このカラフルな景色こそが、彼らがみせるパワーポップ・センスなのだ。
そんな感慨に浸っている時間など後からで良いじゃん!とでも言うかのように、彼らのデビュー当初からの代表曲の一つ、「My Favorite Accident」がプレイされる。JesseとベーシストのMatthew Taylorが所々で拳を振り上げ煽りまくり、それに呼応したオーディエンスの振り上げる拳に改めて心が躍らずにいられない。
曲が終わると再びJustinがすぐに「ありがとうございます!僕は日本語を勉強しています!少し、少しだけ(笑)」とMCを挟み、大の親日スタイルをアピール。これは、「Her Words Destroyed My Planet」の歌詞でもあるが、彼らを見知っていなかったリスナーは、このMCで心をグッと引き寄せられたはずだ。
「L.G. Fuad」がプレイされると、抑制されたビートと憂いの見え隠れするJustinの歌声と歌詞に相まってアリーナがブルーに染まる。新作からのメロウな曲、「Son Of A Gun」が続き、「Her Words Destroyed My Planet」のイントロでは、Justinのテレキャスターのパワフルなサウンドが響き渡る。先述の”僕は日本語を勉強してるんだ!”なんて言葉さえ出てくる歌詞をなぞるヴォーカルもそうだが、パワフルになっても美声が崩れる恐れが一切ないのが凄まじい。間奏ではMatthewが、メインのメロディをコーラスし、オーディエンスを含めた一体感に誘う。そして、さらに固まったオーディエンスに打ち出されたのは、「This Is For Real」。人気曲ということもあり、バンドアンサンブルも力強く、僕たちのパワーポップとはこれなんだ!と言わんばかりの説得力に満ちている。
歌い終わったJustinも感極まったのか、「サンキュー!」と初めて英語を口にする。そして改めて日本語で「僕たちはMotion City Soundtrackです!」と自己紹介。今思えば、もしかしてJustinは過去形で言うのを忘れてしまっていたのかも知れない。その言葉は、これから続く怒濤の3曲でクライマックスを迎える、彼らの最後のクールなアピールだったからである。
その3曲の内で最初にプレイされたのは再び新作から「True Romance」。この曲が、化けた。音源では、縦横無尽にくすぐったく流れ行くシンセの響きが切ないインディー・ロックであったが、ライブではそんなシンセに負けず劣らず、MatthewのメロディアスなベースラインとTonyのタイトなリズムが響き、何倍もパワフルに聴こえる。ちなみに、この曲は今年のNANO-MUGENのコンピレーションアルバム『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2012』に彼らのイントロダクションとしても収録されていたのだが、そんな音源よりも、さらにポップに力強く打ち鳴らされたグルーヴに驚いたオーディエンスも少なくないのではないだろうか。
「ありがとうございます!」と再び日本語を口にしたJustinがスッと息を吸い込み、歌い出したのは”I’m on fire〜(略)”!「The Future Freaks Me Out」だ。イントロの時点で、全ての神経がJustinに向けられたかのような、クライマックスを示すバンドの一体感が清冽だ。間奏では、所々でハンドクラップが起こり、メロに入る前にJustinが「本当に今日はありがとう!すごく楽しく演奏できたよ!アジカンのみんなも、マジでありがとう!」と感謝の意を英語でまくしたてるように叫んだかと思いきや、一息溜めて日本語で「ニホン、イチバン!」と確信をもった言葉を送った。この瞬間が、この日の彼らのステージのハイライトだろう。メロに戻るとJustinは少し泣き声を思わせるようなセンチメンタルな歌声を披露し(しかしシンガロング・パートは全て自分で歌っていた)、オーディエンスのあがった拳の数が減らない。
アウトロが盛大に鳴り響き、メンバーもピックを投げたりして、ここでライブは終演かと思われた。フェス全体としては序盤のアクトでありながら、既に11曲をプレイしており、自他共に認める彼らの昔からの名曲、「The Future Freaks Me Out」も演り終えていたからだ。
なるほど、今回はフェス、それも先述したように、普段は邦楽を中心に聴いているリスナーも参加するフェスであるからか、シンガロング・シーンは無しのまま終演か。しかし、これでも十分に、彼らの魅力を打ち出すことはできたのではないだろうか…!!
勝手にそんな気持ちになっていると、突如、Tonyがドラムによる小気味良いフレーズのイントロを叩き出すではないか!「Everything Is Alright」だ。これで正真正銘、最終曲で言うかのように満面の笑みを浮かべるJustinが眩しい。
それまでは他のメンバーに比べると、実直なプレイに徹していたMatthewも、ここぞとばかりにステージを小刻みに動き回り、Joshuaは前に出てオーディエンスを煽りつつ、SGを掻き鳴らす。
とっておいていたのであろうか、Justinがサビ前に”Are you feeling fine?”との歌詞の次は歌わずオーディエンスにコール&レスポンスを求める。素晴らしい。
間奏では、JustinとJesseが映画『ET』のように人差し指を合わせた。かと、思いきや、その触れ合った人差し指がどんどん上に上がると、同時にTonyのスネアの一打を合図にサビに戻る。オーディエンスも、原曲を知る人知らない人含め、飛び跳ねている光景はまさに歓喜の瞬間とさえ思えた。
その歓喜の嵐をキープしたまま終演へと向かう。アウトロが響き演奏が終わるとメンバーが各々のドリンクボトルを観客に投げ、それでは足りなくなったため、ステージ脇の予備の分までも持ち出し、感謝の意を込めてボトルを投げていた。
ここまでくると、彼らの親日感云々を抜きにしても、十二分なまでに魅力をアピールできたのではないだろうか。そう、MCSは僕たち日本人にも寄り添い歩き「行く」ようなバンドであるのだ。
最後に一つだけ、これからの期待も込めて、書かせていただきたい。
先の「Everything Is Alright」で、Justinがオーディエンスに”Are you feeling fine?”と歌詞通りに呼びかけ、レスポンスを求めたシーンであるが、残念ながら、僕の付近ではアンサーとして、(続く歌詞の)”Yes, I feel just fine”と答える声が少なく感じてしまった(ちなみに僕は、せっかくのMCSのステージということで、関係者席に座るのではなく、アリーナ真中に位置するブロックの前列付近の端で、皆さんに混じって観させていただきました)。
たしかに、何度も書くようで恐縮ではあるが、NANO-MUGEN は必ずしも海外アーティストやシーンに明るくないリスナーも訪れるフェスであるし、そこから、多くの「気付き」を提供する画期的なフェスでもある。従って、ここでレスポンスが少なかったことを嘆いても仕方のないことかも知れないが、歌詞の内容も会場の雰囲気にピッタリだったこともあり、皆が”Yes, I feel just fine”と返せていたら…と思うと、やはり残念な気分が残るところもある。
しかし、今回のステージで、今まで以上に、より多くのリスナーへのアプローチに成功したMCSだ。そして、言うまでもなく、彼らへの門戸はいつでも開かれている。だからこそ、次は皆がJustinの問いかけに答えられるだろう。
“Are you feeling fine?”
もちろん、答えは一つだ。
セットリスト
1. Attractive Today
2. Broken Heart
3. Timelines
4. A Lifeless Ordinary (Need A Little Help)
5. My Favorite Accident
6. L.G. Fuad
7. Son Of A Gun
8. Her Words Destroyed My Planet
9. This Is For Real
10. True Romance
11. The Future Freaks Me Out
12. Everything Is Alright
Epitaph / Ada (2012-06-12)
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Jul 24, 2012