【ライブレポート】Willie Wisely at 下北沢 La cana 2012.04.29
Willie Wisely Japan Tour 2012
上質な楽曲はもとより、見る者すべてをハッピーにする充実のパフォーマンスで定評のあるWillie Wisely。その4年ぶり3度目となるJapanツアーの2日目・東京公演に行ってきました(私にとっては初ウィリー・ライブです)。
会場は温かみのあるインテリアでまとめられた、居心地満点のライブスペース兼レストラン“ラ・カーニャ”。店に足を踏み入れたとたん目に入ったのは、客席の一角(ボックス席)に陣取り、テーブルに何枚ものメモを広げているWillieさんの姿。今夜のセットリストを調整中のようです。ステージにはアコースティックギター、アップライトベース(=ウッドベース)、ピアノ。そしてピアノの椅子の上には、やや小ぶりなアコーディオンとピアニカが置かれています。客席はおそらく60ほど。飲み物を片手に語らいながら、ライブの始まりを待つ贅沢な時間、……たまりません(笑)。
開演時間をむかえて照明が落とされると、さっきの場所(客席)からWillieさんがステージへ。お召し物は、目が覚めるほど鮮やかな赤のドレスシャツです(だから会場に入ったとたん、目についたのだネ)。前立てと袖口にフリルがついていて、とってもファビュラス!
MCもなく演奏し始めたのは「Through Any Window」。そしてそのまま「This Is Everything」へ。比較的静かな幕開けですが、早くもこの段階で彼の“表現欲”が並ではないことが判明。歌ってる間もそうでないときも顔の表情がコロコロ変わり、曲のリズムに合わせて左脚をカパカパ開いたり閉じたり……。ほんとは、両手があと2セットぐらい欲しいんだと思います、この人。2曲目のThis Is Everythingでは、原曲のノイジーな展開を思い起こさせる、非常に熱情的な歌いっぷりです。しかも、ひとつの曲の中での声量変化の振れ幅が大きいこと! ジェットコースターに乗ってるような気分になります。
ベーシストの大山憲治さんが加わり、おおらかなムードで奏でられる「Drink Up」の“Drink Up ah-ah~”をみんなでシンガロング! そこから「Cannot Love You Enough」「Kiss Her And Make It Right」「Everybody Fears The Lord」と、Willie Wisely Trioの曲が続きます。ベースが加わったことで軽快さやスウィング感がアップし、楽しいこと楽しいこと。Kiss Her And Make It Rightではエンディングの演奏が今イチ気に入らず、そこだけやり直し。こういうシーンは、ほかにも何度かありましたが、これもまたライブならではの楽しみってことで(笑)。
そして、鍵盤類を演奏する良原リエさんが“魔法を起こしに(Willie談)”ステージへ。「No Surprise」はCDではハモンドオルガンがフィーチャーされていますが、ここではアコーディオンが大活躍。間奏中に緊急地震速報のアラームが鳴って少しヒヤッとしたけれど、ほんの数秒間中断しただけで、再び会場じゅうが音楽の世界へ没入していきました。「His Eye, It's Wandering」では、リエさんが少しだけコーラスをプラス。とても素敵な声で、その後の演奏への期待度がさらにアップ! 「California」の、急にミステリアスな雰囲気になる展開部は、ライブ演奏によって変化がより鮮明になっていましたね。いやぁ、ドラマチック! 「Drownin' Of Two」は、Willieさんのブルースハープとリエさんのピアニカがどちらも哀愁たっぷりで、渋~い仕上がり。冒頭、ベースを弓で弾いていたのもすごく効果的でした。ピアノを効かせた、非常に伸びやかな「Only Losing Me」を演奏し終えたあと、“前回(2008年)の来日時は、この曲の入ったアルバム「Wisely」ができたてホヤホヤでね。この店で演奏した楽しい記憶がよみがえってきたよ。またみんなに会えてうれしい!”と、この日いちばん長いMC(意外とお喋りは少なめなんですね、Willieさん)。“次の曲はアルバム「She」から。イチ・ニ・サン・シー……”と、おやじギャグを披露して「Vagabond」。ピアノの不思議な和音とリエさんの素敵なコーラスに、ワタクシすっかり持っていかれちゃいました。第一部の締めくくりは「Cut Your Groove」で軽やかに。一瞬見せてくれた南京玉すだれは、来たるべき次回来日に向けて腕を磨いておいてください(笑)。
短い休憩をはさんで、第二部はボサノヴァ風味の「(There's) Always Something There to Remind Me」でさらっとスタート。次の「Sleeping With Girls」がラテンフレーバー漂う曲だから、それに合わせたのかな。「Automaton」はKinks~The Whoを思わせる曲調で、ギターのカッティングが滅茶苦茶かっこよかったです。
カントリー調の「Dr. Jack」から、ベースの憲治さんが復活。“パワーポップミュージシャンのCliff Hillisって知ってる? 次の曲は彼と一緒に書いたんだ”と紹介していたのは「Good & Bad」という曲で、Cliffさんの『The Long Now』というアルバムに入っています。「Altitudes」はリハーサルなしで急に演奏したらしく、見事に弾きこなした憲治さんのプレイをベタ褒め。
再びリエさんが加わり、ショーのムードはさらにどんどん昇り調子に。とりわけ感動的だったのは、リエさんのピアノ&歌声とWillieさんのパフォーマンスが見事に溶け合った「Real」と「Lady Of Love」。温かくてまろやかだけど輪郭のはっきりしている、実にいい声です、リエさん。「Robe In Glory」での、ブルースハープとアコーディオンのかけ合いも楽しかったな。「Parador」では、観客も“Oh-no”の部分のコーラスで参加。
……すみません。第二部でトリオ演奏になったあたりから気持ちよすぎて、実は記憶が曖昧です。 ほら、のだめカンタービレの演奏シーンで、楽器から音符や花びらやキラキラしたモノなんかが飛び出てくるじゃないですか。あぁいうのが、三人の楽器から溢れ出してる瞬間が何度もあったんですよ(もちろん、私の幻覚ですけどネ)。きっと多くのオーディエンスがお待ちかねだった「Go!」を演奏し終えると、一人ステージに残り、最後の曲「Erase Me」をしっとりと。
アンコールを求める拍手と歓声に応えてすぐに二人を呼び戻し、“あまり上手くいかなかったから”と先ほどプレイした「Real」を再び演奏(もう一度聴けるなんて、まさに俺得(笑))。そして最後は一人、芝居っ気たっぷりの歌唱で「National Council Of Jewish Women's Thrift Store」を。ほぼ2時間きっかり。なんと全30曲!の大熱演でした。
何より印象深かったのは、Willieさんの歌の表現力の多彩さ。CDを聴きながら「曲によって、ずいぶん歌唱の印象が違うなぁ」と思っていましたが、ライブではさらにそれが顕著で、しかも1曲の中でもダイナミックに変化します。男前な歌声に聴きほれてると、突如として塩辛いダミ声になったり、クレイジーでキレまくりなシャウトをした次の小節で、何ごともなかったようにクールに歌い出したり……。ほんと、楽しませていただきました。
さらに特筆すべきは、三人のコンビネーション。お二人は、バックに徹して生真面目にCDの音を再現するわけではなく、かといって音楽家の自我を前面に出して“闘う”わけでもなく、きわめてナチュラルにWillieの楽曲を楽しみながら、“この三人でなきゃ出せない音”を紡ぎ出すことに成功していました。来日ミュージシャンと日本人サポートミュージシャンの組み合せにおける“とても幸せなカタチ”だなぁと思いました。
あと、Willie Wisely Trioの最新作「True」は凄くいいアルバムだってことが、ライブを通じて再認識できました(新作のプロモーションツアーとして、これはとっても理想的なこと)。アメリカのルーツ音楽の魅力たっぷりの1枚、ぜひチェックしてみてください。
セットリスト
Through Any Window
This Is Everything
Drink Up
Cannot Love You Enough
Kiss Her And Make It Right
Everybody Fears The Lord
No Surprise
His Eye, It's Wandering
California
Drownin' Of Two
Only Losing Me
Vagabond
Cut Your Groove
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Always Something There to Remind Me (Cover)
Sleeping With Girls
Automaton
Dr. Jack
Good And Bad
Altitudes
Real
Robe In Glory
Tokyo Arbor
Lady Of Love
Ella
Parador
Vanilla
Go!
Erase Me
_____________________________________
Real
National Council Of Jewish Women's Thrift Store
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May 18, 2012