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Superchunk "I Hate Music"

2013(I Hate Music) ¥2,415(tax in)

 世界中のインディー・ロック・アーティスト、いや、インディー・ロックなんて枠組みさえも超えて数多くのアーティストから絶大な支持を受けるアメリカのインディー・ロック界のドン的バンド、Superchunkが2010年代2作目となる新作のオリジナル・フルアルバムをリリースした!もちろん、今回もフロントマンのMac McCaughanと紅一点ベーシストのLaura Balanceの共同インディー・レーベル、Merge Recordsからのリリースだ。最早、改めて述べるまでもないが、Mergeは彼らの自主レーベルであるだけでなく、Arcade Fireをはじめとする新たな良質なインディー・ロックバンドやTeenage Fanclubを筆頭に歴代のパワーポップレジェンドをも包含する名門インディー・レーベルである。相変わらず、彼らは彼らのペースで新作をリリースしたことになる。

 前作、『Majesty Shredding』は、2000年代で唯一リリースされたオリジナル・フルアルバム、『Here’s To Shutting Up』(2001年リリース)から9年の歳月を経てリリースされたSuperchunk復活盤とでも言うべき傑作だった。「Digging For Something」(まだ「何か」をディグり続けている!)から「Everything At Once」(この歌は何も意味しない、けれど一瞬の全てをも歌っているだ!)に至るまで、彼らのエネルギッシュかつパワフルな魅力を余すところなく、響き渡らせることに成功し、まだまだ彼らが現役のインディー・ロック・アーティストであることを証明した。

 そんな前作から3年、届けられたアルバムが今作『I Hate Music』だ。
今作、タイトルから意味深であるし、ジャケットには名盤『Here’s Where The Strings Come In』以来、実に18年ぶりにイラスト主体でなく、写真主体のものになっている。
しかし、そんなタイトルやジャケットに反して、彼らのエッセンスである、オルタナティヴで、パンキッシュで、そして極上のパワーポップサウンドは、変わらずに健在である。
 リード・トラックである「FOH」を聴けば、そこには『Majesty Shredding』で見せつけた、彼らの決して固定せずに、現代に合わせてその都度、更新され、それでいて、彼ららしさが光るパワフルなリフとMacの甲高いヴォーカリゼーションのアンサンブルの新たなフェーズがみられる。
 しかし、この「FOH」でもそうであるが、アルバム全体を通して見えてくる情景は、『Majesty Shredding』のそれとは、違うものになっている。静かなフィードバックとアコースティックギターの響きと共に歌い出すMacの無骨な歌声が切ない「Overflows」からJon Wrusterのタイトなドラミングの上にバンドアンサンブルときらめくシンセサイザーの音色が飛び交う「What Can We Do」にいたるまで、アルバムのそこかしこに寂しさ…寂寥感とも言える感情が見え隠れする。それは、どこかジャケットに見られるような、しんしんと降り積もる雪の道を強かに一歩一歩踏みしめながら歩いているような感覚、と言えるかも知れない。
ここでアルバムのリリースのアナウンスと共に、告知された一つのショッキングなニュースがある。それは、先にも述べたMacと共にMergeの共同設立者でもあった紅一点のベーシスト、Lauraが聴力喪失に似た症状を訴えたために、以降のライヴ活動に参加できないというものだった。とは言っても、今作にみられる、そこはかとない寂寥感の原因がそこにあると言うのは、いささか早計に過ぎるだろう。
 このパワフルでポップなメロディセンスの裏で見え隠れする寂しさは、哀しさの言い換えではない。むしろその寂しさはどこかに懐かしさがあるような、しんしんと浸りゆく雪のような哀愁を感じさせるものでもある。それは、僕達を不安にさせる寂しさではなく、むしろ包み込むような感傷的なものである。
 寂寥感があると言っても、そこはSuperchunk、どの曲もMacのやたらと甲高い絶唱と共に一気に跳ね上がるようなサウンドであるのはもちろん変わりない。そういった意味では、先に挙げた『Here’s To Shutting Up』で見せてくれたような、少しセンチメンタルな感覚と『Majesty Shredding』の大復活の爆音をうまく折衷したものであるとも言える。
 ジャマイカのスカバンド、The Skatalitesのバンド創立メンバーでもあるJackie Mittooをタイトルに掲揚した「Me&You&Jackie Mittoo」はアルバム・タイトルにもなった、”I hate music”という一節から始まる。しかし、そのMVはそんな言葉に反して、Bob Dylan『The Freewheelin’ Bob Dylan』から始まり数えていけばキリがないほど多くの名盤のLPを抱えた人々がどんどん映し出される。そこには音楽を愛すること、そのこと自体に対しての至福さえ見えるのだ。

 Superchunkは多くのアーティストからリスペクトの念が送られているが、彼らを孤高のバンドと呼ぶのはやはり、どこか違和感があるだろう。そう、Macの甲高い絶唱と印象的な鋭いギターリフ、そしてクールなバンドアンサンブルは、まさに僕達を嵐の渦中に巻き込むようなパワフルなポップセンスがあるからだ。今回の彼らの嵐は寂寥の雪とともにきた。さあ、優しく切ない雪の道をSuperchunkのメロディと共に歩き出そうではないか。


<青野 圭祐>



<トラックリスト>
1. OVERFLOWS
2. ME & YOU & JACKIE MITTOO
3. VOID
4. STAYING HOME
5. LOW F
6. TREES OF BARCELONA
7. BREAKING DOWN
8. OUT OF THE SUN
9. YOUR THEME
10. FOH
11. WHAT CAN WE DO
12. OVERFLOWS (ACOUSTIC DEMO) (日本盤のみのボーナス・トラック)


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